兄貴がミカエルになるとき
その写真をすぐに現像して師匠に見せると、彼は少しの間そのプリントを見つめた後に『これに決まりだな』って、僕の肩をたたいた。

彼の下で5年間働いてきて、『お前、すごいじゃないか』って初めて褒められたよ。

その数ヵ月後、タイムズスクエアの大看板にはバルバリーのトレンチコートを着たアキがいて、上からみんなを見下ろしていた」

「質がいいだけのあんなつまらないオーソドックスなトレンチが売れに売れちゃってさ。バルバリーはウハウハよ。タンクトップにトレンチを引っ掛けた女が街にわんさか溢れたわ。力強さともろさ、挑戦的なのにどこか心細げな瞳、蓮っ葉さと無垢な少女、エレガントで退廃的、見る人によっていろんな要素が浮き出てくるの。みんな、あんたのママになりたがっていた。タイムズスクエアの看板をいつも誰かが見上げていたわ。まるで呪文をかけられたみたいにね」

ティムさんの中でもモデル時代のママは鮮烈に姿を残しているらしい。

いつの間にか語り部はティムさんにバトンタッチされていた。
< 205 / 307 >

この作品をシェア

pagetop