兄貴がミカエルになるとき
そのK.Lの広告写真を撮ったのもリチャードで、彼はママの写真をきっかけに、トップカメラマンへの道を歩みだしたというわけだ。

「だけどアキはバルバリーの次のシーズンのモデルだけしぶしぶ引き受けた後、あっさりモデルをやめちゃったんだ」リチャードは今でも残念そうだ。

「君のパパが僕のミューズをかっさらったんだ」と、リチャードが恨めしそうに言うと、「いいえ、アキはトオルのミューズになりたくて日本に帰ったのよ」と、ティムさんが応えた。

トオ兄の出生を知ったばかりで、今度はママの経歴。

うちには私の知らないことが多すぎる。

「なんで私がモデルをやろうか迷った時にママは教えてくれなかったんだろう?」

「少しは聞いていると思ったよ」

「あ、もしかしてママのコネで私がモデルをやれているとか?」

「そんなにこの世界は甘くない。それに君があのアキの娘だなんて、誰も知らないよ。気付いているのはIMHの担当者くらいかな」

いつの間にかモニターからティムさんの姿が消えている。

リチャードも、本来のスカイプ通話の趣旨は私の広告の話だったはずだけど、そこまで辿り着かないうちに「眠くなってきたからまた」と言って、一方的に通話を切ってしまった。

それにしても、18年前のママと私の姿が似ているかどうかはわからないけど、周囲の流れでモデルを始めたところは同じだ。
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