兄貴がミカエルになるとき
「なにこれ?」

真田は受け取った袋を見て不思議そうな顔をしている。

今日はバレンタインデーだけど、もしかしてチョコ? なんていう発想は出てこないらしい。

「チョコだよ」と言うと、本当にびっくりした顔をして私の顔を見た。

「大丈夫、ただの友達チョコだから」

「なんだ、そうか。そうだよな」

真田は歯並びの良いきれいな歯を見せた。

ホッとしたような、ちょっと気の抜けような顔だった。

「だけどさあ、バレンタインデーにチョコ貰って、そんなに焦ることはないんじゃない?」

「いやいやいやいや、予期せぬことは何でも焦るもんなんだよ」

「バレンタインデーにチョコもらうのが予期せぬこと?」

「お前にもらうことが予期せぬこと」

まあ、確かに。それは言えている。

「私からでもチョコもらうと嬉しい?」

「そりゃあ、まあな」

ちょっと照れている。

「そっか、よかった。あ、本当に友達チョコだから、ホワイトデーのお返しなんかも必要ないから。
安心したでしょ」

「おぅ、有難う。じゃあ気にせず、むしゃむしゃ食うよ」

真田はチョコが入った袋をノートの下に隠すようにして、腕に抱えた。

このままこの日が終われば、なかなかいいバレンタインデーだったのだ。

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