兄貴がミカエルになるとき
「知りたい?」

「知りたい」

「この世で一番側にいて、一番想っているのに、そんな男に気づかないとんまな女」

そう言ってトオ兄は足を止め、手のひらで私のまぶたを軽く覆った。

トオ兄の髪が少し顔に触れたと感じた後に、何かが唇に触れた。

それはとてもそっと、とても優しく、初めての感触だった。

私は目を瞑ったままトオ兄のひんやりした指と、一瞬唇に触れた柔らかな感触に浸っていた。

再び視界が明るくなったとき、トオ兄はもう私の前を歩いていた。。

「咲季」と呼ばれ、差し出された右手をつなぐ。

兄貴と手をつなぐなんてちょっと変だけど、トオ兄は幼い頃から私の手を誰よりも握っていてくれた。
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