兄貴がミカエルになるとき

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「リチャード、またあなたなの? まだ悩んでいるわけ? そんなこと、私に電話してこられても何のアドバイスもできないわよ」

ママがスマホに向かって叫んでいる。

「え? 聞いてくれるだけでいい? あのね、私は主婦で忙しいの。そんな相談、そっちの友達にのってもらってよ」

ちょうど春休みになったあたりから、毎日、ニューヨークに住むリチャードからママに電話がかかるようになった。

リチャードはファッションフォトグラファーで、現在42歳。

見た目はジョージ・クルーニー似の、普通にしていれば渋くてカッコいいアメリカ人だ。

ママがその昔、ニューヨークに住んでいた時の友人だということだから、もう15年来の仲になる。
ついでに言えば、ママとパパが出会ったのも、トオ兄が生まれたのもニューヨークだ。

私もニューヨークで生んでくれればちょっとカッコよかったのに、残念だ。

ママとリチャードが知り合った経緯は詳しく知らないけれど、リチャードという名前が出るたび温和なパパの表情が珍しく険しくなる。

なので、きっとママの元彼に違いない、と私は睨んでいる。
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