兄貴がミカエルになるとき
ママから聞いた話では、ママと出会った頃、リチャードはまだぱっとしないフリーのカメラマンだったそうだ。

撮影の依頼はあまり来ず、師匠である売れっ子カメラマンのアシスタントが当時の主な仕事だったという。

それが、師匠が気まぐれにリチャードに撮らせた写真がビッグチャンスとなって大きな仕事が舞い込むようになり、気付けば今やファッション業界では超有名なフォトグラファーになってしまった。

「運も才能のうちね」とママは言い、「まったくだ」、とリチャードも素直に認めているけれど、私はリチャードの写真は特別だと思う。

なんと表現したらいいのか、洋服とモデルが一体となった風景は、風が流れてくるような躍動感がある。

モデルの囁きとか洋服の肌触り、空気の匂いまでも感じられるトリップ感があって、自然と写真の世界に入り込んでしまう。

ある時には自分がそのモデルになったかのように。

ある時にはそのモデルの端に並んでいるかのように。

だから運もあったかもしれないけれど、やっぱりリチャードの写真はすごい、と素人ながらに思うのだ。
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