兄貴がミカエルになるとき
翌日に行われたオーディションでは何もわからず、シェリルの洋服をとっかえひっかえ着せられて、スタッフの前に立つだけだった。

少し動いてみろと言われたときにも、どうすればいいのかわからなかった。

見かねたトオ兄が、横からその服ごとのイメージを膨らませるようなヒントを与えてくれた。

たとえば、
「『ドラゴン・タトゥー』の女リスベットの孤独」を感じろ」とか、

「まど・みちおの『メロンの時間』の優しい雰囲気」とか、

「『ローマの休日』でアン王女が自由な時間に心を躍らせるとき」とか。

他人には意味不明なヒントだけど、それは私にはすごくわかりやすくて、私はただその世界を思い出し、主人公になりきって楽しくなったり、寂しくなったりすればよかった。

ママもトオ兄も、正直このオーディションはタダ旅行にくっついてきた用事程度に捉えていたのでお気楽だった。
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