兄貴がミカエルになるとき
「人が何かを欲するときの力ってすごいわね。七カ月間で基本的な日本語をマスターしちゃったわ」

と、ティムさんは自慢する。

しかし残念なことに、日本語で甘く囁きあうことを夢見た相手は違うアメリカ人とあっさりできてしまった、もとい、くっついてしまったそうだ。

リチャードが言うには、ティムさんはアメリカのモデル業界ではほとんど神のような存在で、彼にレッスンしてもらえるなんてめったにないチャンスなのだそうだ。

でもって、なんでそんなすごい人が私ごとき新人モデルのために日本までやってきてレッスンしてくれるかというと、単にリチャードから頼まれたからだという。

「じゃなきゃ、あんたのためにわざわざこんなとこまで来ないわよ」

最初から辛辣だ。

「それってリチャードを好きってこと?」

「そうよ」

「ラブって意味?」

ティムさんは目だけ動かして私をちろりと見、それがなんだというように、ゆっくり「そうよ」と答えた。
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