兄貴がミカエルになるとき
東京都内の某スタジオ。

ティムさんと私、そして通訳のためにトオ兄も付き添っている。

「それじゃ、スタート! 歩いてちょうだい」

ティムさんの合図で正面のミラーに向かって歩き始める。

もう20往復はしているだろう。

そしてミラーでターンして戻ってくるたびに「バカ! おたんこなす!」という罵声がスタジオ内にこだまする。

やたら日本語の罵詈雑言に長けているのは、きっとこうした言葉を使う機会が多々あったのだろうと予測する。

それもおたんこなすなんて、日本人だってそうそう使わない。

ろくでなしと言われたのは生まれて初めてだ。
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