兄貴がミカエルになるとき
「夏休みはニューヨークに行くんだっけ?」

「うん。明後日から」

「いいなあ。かっこいいトオルさんと一緒にニューヨークだなんて。素敵」

幸っちゃんはうるんとした目で空を仰ぐ。

「素敵ったって一応、兄貴だからね」

そう、一応は―――。

「普通のマネージャのように私を大事に扱ってくれるわけでもないし、それにうるさいママも一緒だし。全然素敵じゃないただの家族巡業だよ。それにね、今回は仕事以外にもやることがあるの」

「やることって何?」

空いたペットボトルをゴミ箱に放り込んで幸ちゃんは私の前に向き直った。


「私だけが知らないうちの秘密を探りに行くの」

まだ幸っちゃんにも話せない。

でも、多分ママの妹である幸っちゃんのママも知っているはずだ。

知っているのに、誰もが私に隠している。

トオ兄が本当はどこから来たのか、

ママとトオ兄の背中になぜ同じような傷があるのか、その本当の理由を―――。

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