兄貴がミカエルになるとき
第4章

-1-

ママの右肩甲骨の下から背中にかけて傷があるのは、物心がついたころから知っていた。最初にお風呂でその傷を見たときに、「ママ、これどうしたの?」と聞くと、「ずっと前にけがしちゃったのよ」と教えてくれた。

もう痛くはないというので、ママが私の体を洗ってくれているときに、そっと指でなぞってみた。
傷はとても深かったのだろう。

うんと昔の傷だというのに、まだその傷跡はうっすら赤みを帯びていて、少し盛り上がっていた。

トオ兄の背中にママと似たような傷があることを知ったのは、それから少しあと。

私が5歳の時に家族で海水浴に行った時だった。

地元の人が集うような小さなビーチで、シーズンにしては驚くほどすいていた。

真夏のビーチでママが来ていた赤いタンクトップは、首元で結ばれたリボンだけで支えられ、歩くたびに翻っていた。

ひらり、ひらりと踊る赤いリボンを追いかけて、波打ち際に向かっていくママの背中にぴょんぴょん飛びついたのを覚えている。
< 98 / 307 >

この作品をシェア

pagetop