西山くんが不機嫌な理由





歩みを進ませていた足はとっくに止まっていて、お互いが向かい合うようにして立っている。




心臓が嫌にバクバク音を立てて騒ぎ出すのに、西山くんをそうっと見上げる。



哀の色を含んだ顔はどこ吹く風。




こちらに向けられていた、淡い熱っぽさを孕んだ瞳に、先程とはまた違う衝撃を受けた。




思わず奇声を発してしまっても可笑しくないくらいだったけれど、黙れと言われたばかりだったことを思い出して開きかけた口を両手で覆う。




西山くんから、目を逸らすことが出来ない。




人気のあまりない住宅街で助かった、きっと今私の顔は見事な間抜け面に違いない。



只でさえ慣れないメイクで失敗をして憐れな仕上がりになっているだろうに。




間違いなく私を視界の中心に入れている西山くんは、いつもの如く言葉を発することもなければ、顔の表情を変えることもない。



唯一の変化は、微かな変化を見せた眼差しだけ。




西山くん、そんな見ているだけで相手を惹き付けてしまうような、溶けてしまいそうな強い眼差しを、どうして私に向けているの。




自分の頬にみるみる熱が集中していることが分かる。



10秒後にはもれなく茹でたこの完成だ。




たまらず西山くんから顔を背ける。




そうすればふと、視界に映る筈の姿が忽然と消え去っていたことに気が付く。



そう遠く離れてはいなかったのに。



「山城くん、どこ行ったんだろ、う」



そう何の気なしに呟いた次の瞬間、顎を掬われて西山くんの前に持っていかれた。



驚いて顔を上げると、あろうことか熱っぽい瞳がすぐ前にあって。




あ、と声を上げる前に、首に刺激が走った。




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