西山くんが不機嫌な理由
正確には首というよりも、首と肩の丁度境目のところ。
ちりちりと、小さく鈍い痛みが伝う。
瞬きをしたときには、西山くんの顔は離れていた。
その視線は私から外れてそっぽを向いている。
西山くんの表情はというと、長い前髪に隠されてよく分からない。
放心気味に、首元にそうっと確かめるように手を這わせてみる。
だがしかし、感覚だけでは何も感じ取ることが出来ない。
「(今のは夢?幻想?)」
今の状況をよく理解出来ずに、相当間の抜けた顔をしていたのだろう。
明らかに呆れた表情の西山くんが見下ろしてきている。
気が付いて慌てて顔を背けようとしたところで、携帯の着信音がすっかり気まずくなった2人の間を横切るように鳴る。
規則正しいアラームは私のものではない。
ブレザーのポケットからブラックの携帯を取り出した西山くんは、液晶画面に複雑な面持ちで睨めっこを暫し続けた後、やがて諦めたのか着信ボタンを押して耳に当てる。
果たして私はここに居てもいいのかと疑問が浮かんだが、通話口に意識が向いているはずの西山くんの大きな瞳が真っ直ぐにこちらを捉えて離そうとしないので、移動しようにもそれが出来ない。
まあ他人に聞かれてはまずい内容だとしたら、着信の相手を確かめた時点でこの場を離れるものだろう。
「…………なに」
西山くんの声変わりをしたわりには少し高めの地声が、ワントーン下がったことに違和感を覚える。
機嫌の悪さを思い切り表に出すこと自体が珍しい。
ポーカーフェイス一直線の西山くんに、名前だけでそんな顔をさせる相手は一体誰なのか。
き、気になる。
「(私といるときは表情ひとつ変わらない癖してさー)」
不条理な嫉妬心を抱きつつ、西山くんの電話が終わるまでの暇を持て余す。
ここから歩いてそう遠くない公園でメイクでも落としてこようかな。
猛ダッシュで向かえば往復5分も掛からないだろう。
決め込んで踵を返す。
だがそう上手くはいかず、すかさず腕を掴まれて動きを阻まれた。