西山くんが不機嫌な理由
こちらがどう避けようと試みても、男の気が済むまではどこまでも追い掛けてきそうな気がする。
強行突破を潔く諦め溜め息を漏らしつつ男に視線を向ければ、気が付いたらしく満足気な笑みを浮かべる。
「西山くん、頭の回転は噂通り速いんだね。尊敬するわー」
「…………話は、なに」
「あぁ、うんそうそう」
思い出したように片手のひらに拳をポン、と叩く。
勿体ぶるような行為は必要ないから、さっさと本題に入ってほしい。
「あのね、ひとつだけアドバイスしてあげよう」
人差し指を顔の前に突き出し、ひとつ咳払いをしてから言葉を続ける。
「呉羽ちゃんのこと、好きか否か迷ってるのならさ、特別に判断基準教えるね」
言いながら、男は鬱陶しい含み笑いを崩し真剣な顔付きに変わる。
「要は、好きか、嫌いか、そのふたつの選択」
「…………」
「普通、どちらかといえば、微妙、なんて中途半端な答えは存在しないよ。結局最終的に辿り付く答えはふたつしか残らない」
男の言いたいことは、その表情からおおよそ真剣な雰囲気で伝わってくる。
滅茶苦茶なことを言っているけれど、最もらしいことを極端に言葉に表したようにも感じられる。
用意された選択肢は、好きか嫌いか。
もしも、仮の話だとして、男の話が8割真実に当て嵌まっていたとして。
答えは、悩む間もなく瞬時に弾き出された。
好きだ。とにかく好きなんだ。
正確な理由は自分自身ですら容易に把握出来るものではなくて、はっきりと自覚した今このときでさえもほとほと疑問が浮かび上がる点はいくつもあるけれど。
とにもかくにも、俺自身が間違いなく凪という人に惹かれていることは確信した。
これで、心の奥に引っ掛かっていた厄介な感情は綺麗さっぱり取り除かれた。