真夜中の魔法使い
誘拐事件

王立大学へ



一度部屋まで戻り、クローゼットから手袋、ニット帽、マフラー、コートを取り出した。
コートの内側には、明け方までかかって縫い付けた印が微かに光っている。


ミユウは少しの間その輪状の印を見つめていたが、はっとして、急いで袖を通した。


念のため、グレーの帽子を目深にかぶって、あまり人目に顔を晒さないようにする。
首に巻いた群青色のマフラーは、以前アキがくれたものだ。

まだかずかにアキの魔力が感じられるそのマフラーに、顔をうずめてミユウは外に向かった。



庭まで行かずに、玄関のアプローチのところで目を閉じる。
意識を集中させて転移の呪文を唱えた。





次に目を開けた時には、時計のある大きな建物が目の前にあった。
ここが王立大学である。


広大な敷地を誇る王立大学は、この時計のある本部棟を中心として扇形に研究棟が広がっている。ミナトが所属する魔法学研究棟は扇の右側、北寄りにあったはずだ。


自力で転移ができるようになってから、何度かこうして兄の忘れ物を届けたことがある。



何でも完璧な兄の、唯一の欠点とも言えるのが忘れ物である。
ひとつのことに集中していると、まわりのことが目に入らなくなってしまうのだ。

今回も大方、研究のことで頭がいっぱいのまま出かけてしまったのだろう。




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