恋のはじまりは曖昧で
戸惑ったけど、正直荷物を持ってくれるのはありがたかったので、お言葉に甘えることにした。
成り行きで、私は田中主任と一緒にマンションへ帰ることになった。
「本当なら俺がその子をおんぶしてあげたいけど、見ず知らずの人に背負われるのも抵抗あるだろうから。代わってあげれなくてごめんね」
そう言って、田中主任は虎太郎のことまで気にしてくれていた。
どこまでも気遣いのできる田中主任は本当に素敵な人だなと思った。
自転車と歩行者、並んで歩く訳にはいかないので必然的に私と虎太郎の後を追うように田中主任は自転車を押して歩いている。
私の中に田中主任が自転車に乗るイメージがなかったから新鮮に感じる。
何だか不思議な気分。
さっきまで虎太郎をおんぶして歩くのはしんどくて苦痛だったけど、今はそんなことは感じない。
荷物を持ってもらったから軽くなったというのもあるかも知れないけど、やっぱり田中主任の存在が大きく関係していると思う。
プライベートな時、上司がそばにいたら気が引き締まるというか、緊張感が生まれる。
「さあやちゃん、このおにーちゃんだれ?」
横断歩道の信号が赤に変わり足を止めると、今まで黙っていた虎太郎が後ろを振り返り、田中主任を指さした。