恋のはじまりは曖昧で

「こら、コタ!人に向かって指さしちゃダメでしょ」

「はは、いいよ。俺はね、紗彩ちゃんと同じ会社で働いている田中浩介って言うんだ。って言っても分かんないかな?」

「おにいちゃんはさあやちゃんのおともだちなの?」

虎太郎は声を弾ませながら言う。
それよりも、田中主任に“紗彩”って名前で呼ばれたことにドキッとした。

「うーん、お友達とはちょっと違うんだけど……いや、お友達かな」

きっと、会社の同僚と言っても虎太郎には分からないので、友達というくくりにしたんだろう。

「そうなんだ。ボクにもね、おともだちがいるんだよ。えりちゃんにゆいちゃんにともみちゃん。それと……」

「コタ、あんた全部女の子の名前なんだけど」

「うん。みんなボクのことだいすきっていってくれてるの。だからボクはみんなとなかよくしてるんだ」

おいおい、あんたはプレイボーイか!と突っ込みたくなった。
田中主任は「みんなと仲良くすることはいいことだよ」なんて言って爽やかに笑う。

さっきの処世術といい、お姉さん(本当はおばさんだけど)は虎太郎の将来が心配になっちゃうよ。

信号が青に変わり、歩き始めても虎太郎は田中主任と話を続けようとした。
だけど、他の通行人の邪魔になったらいけないので会話を中断させると「さあやちゃんのケチ」と口を尖らせた。

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