恋のはじまりは曖昧で
「課長が飾らないなら俺が飾ってもいいっすか?」
それを見ていた田中主任が、橋本さんの手に持っていた写真に手を伸ばした時。
「貸せ」
河野課長が奪い取り、写真をテーブルに伏せて置いた。
そのあまりにも素早い動きに口がポカンと開く。
普段、クールでそつなく仕事をこなす印象の課長からは全く想像ができなかったから、そりゃ驚くでしょ。
「あはは。どんだけ独占欲が強いのよ。ホント、花音のことになると冗談も通じないぐらい心が狭くなるわね」
「うるさい、余計なお世話だ」
河野課長は不機嫌な顔になり、橋本さんは大爆笑している。
二人のやり取りを見ていた周りの人たちも笑っている。
もちろん、田中主任も。
その表情は無理して笑っているんじゃなくて、本当に楽しそうな笑顔に見えた。
でも、よく考えたら複雑だよなぁ。
上司と同じ人を好きになった結果、自分は失恋した。
その上司は自分が好きな人と結婚して……。
二人の幸せそうな姿を目の当たりにしたらやっぱり辛いし、嫉妬してしまうよね。
一人、そんなことを考えながら、ねぎまにかぶりつく。
「それより、田中。あんたもう吹っ切れたの?」
酔いの回った橋本さんは“今度の標的は田中主任”とばかりに声をかけた。