恋のはじまりは曖昧で

「俺もいつまでも引きずっている訳じゃないし、もう前を向いてますよ。花音ちゃんと課長の披露宴も穏やかな気持ちで出席して、心から『おめでとう』って言えたんで」

田中主任は微笑みながら言う。

その言葉を聞いて、ハッとした。
私の考えていたような、嫉妬してしまうとか、そんな次元の低い話ではなかったんだ。
田中主任は失恋の辛さを乗り越えて、相手の幸せを祝ってあげている。
人間として出来た人なのかもしれない。
あー、恋愛って奥が深いんだな。
私なんて、まともに恋愛した経験もないし失恋もない。

高校時代の初恋と言っても、憧れていただけで、恋い焦がれるようなものではなかった。
挙げ句の果てに、高校を卒業した時点で自分で恋を終わらせた。
その初恋の相手の先生がお姉ちゃんと付き合ってることを知り、勝手にショックを受けるという完全な一人相撲。
今考えると幼稚すぎて、恥ずかしい黒歴史だ。

橋本さんは、その答えに満足そうに笑い、ガシッと田中主任の肩を掴んで顔を覗き込んだ。

「そっか。で、今はどうなのよ?好きな子いるの?」

「ゲッ、やっぱりそう来たか。ホント、これ以上は勘弁してくださいよ。原田部長、助けてくださーい」

原田部長に向かって、助けてくれとアピールする。
田中主任は冗談ぽく言っているんだけど、表情はマジな感じで本当に助けて欲しいんだというのが伝わってきた。
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