恋のはじまりは曖昧で
「返事は急がない。ゆっくり考えてくれればいいから」
気を遣ってくれたのか、そんなことを言う。
返事を先延ばしにしたとして、私からその話を切り出すなんて絶対に出来ないと思う。
それに、私の返事は決まっているからゆっくり考えるまでもない。
今、言わなきゃ。
緊張している自分にしっかりしろ、と喝をいれる。
さっきの田中主任の言葉に後押しされるように口を開いた。
「あの、私も……田中主任のことが……好き、です」
途切れ途切れで声も小さかったけど、生まれて初めて告白をした。
恐る恐る田中主任を見ると、目を見開いて驚きの表情を浮かべていた。
そして、穏やかで嬉しさに満たされたように微笑んだ。
「ヤバい、嬉しすぎる。抱きしめてもいい?」
返事をする前に、私の身体は引き寄せられていた。
今の状況が信じられなくて、でも田中主任のスパイシーな香りが鼻をくすぐり、これは現実なんだと実感する。
何度か田中主任に抱きしめられたことがある。
だけど、その時は微動だに出来なかった。
私は遠慮がちに目の前の田中主任の身体に腕を回してみた。
すると、それに応えるように田中主任はさっきよりもきつく抱きしめてきた。
狭い車の中だったので微妙に窮屈な体勢だったけど、田中主任と想いが通じ合ったことに幸せをかみしめていた。