恋のはじまりは曖昧で
「当たり前だろ。紗彩が離せって言っても離してやらないから覚悟しとけ」
強引なその言葉にキュンとしてしまった。
「あとさ、こういう時に役職で呼ばれたくないんだけど。それに昨日はあんなに色っぽい声で浩介さんて何度も呼んでくれたのに」
「や、やだっ。そんなこと言わないでください」
思い出しただけで顔がボッと火がついたように熱くなり、背を向けた。
すると背後から腕が伸びてきて私を包み込む。
背中に浩介さんの体温を感じ、ドキドキが加速する。
「ごめん、紗彩。謝るからこっちを向いて」
その声にゆっくりと向き直すと、真剣な表情で私を見ている浩介さんと目が合う。
「あのさ、今すぐにって訳にはいかないけど、将来的なことを見据えていつか一緒に住みたいと思っているんだ」
「えっ?」
「紗彩が嫌じゃなかったらの話だけど」
そう言った浩介さんの瞳が不安げに揺れている。
浩介さんから与えられる全ての事柄で嫌なことはひとつもない。
ましてや、将来的なことを見据えてとか言ってもらえるなんて思ってもいなかったし。
「嫌だなんて言うはずがないじゃないですか。でも、本気ですか?」
「あぁ。こんなこと冗談で言う訳がない。俺は本気で紗彩のことが好きだから」
逸らされることなく、真っ直ぐに私を見つめる瞳は真剣味を帯びていてる。
その瞳から自惚れじゃなく、愛されているんだと実感できる。