ヤンデレなら、病んで下さい!
「し、ししし、紫暮さああんっ!」
考えた結果、助けを呼ぶことにした。
真っ先に呼んだのは彼の名前だけどーーあれ、でも。ここは彼の部屋なんだから、こんなことするのは。
「どうしたの、雛!?」
結論を出す前に、慌てふためく彼という珍しいものが寝室に入ってきた。
料理でも作っていたか、青いエプロンをしたまま、彼はベッドに膝をつき、私の顔を覗き込む。
「どこか気分が……やっぱり、薬はまずかったか。大丈夫?あんまり酷いときは救急車呼ぶよ」
「い、いえ、そうじゃなくて、大変なんですっ。私、逮捕されてます!」
言った瞬間、己に「そうじゃないでしょっ!」と叱咤された。頭の中で。
彼も呆気に取られているし、うわ、恥ずかしい。
「……クッ」
笑われたっ!
しかもか、私に遠慮して顔を背けてくれたけど、肩がプルプルする笑い方をしている!
「わ、笑わないで下さいよ」
「ご、ごめっ。そうだよね、起きたばかりで、こんな目に合っていたら混乱するのも無理ないか。元凶たる俺を真っ先に呼ぶぐらいだし」
エプロンを脱ぎつつ、私に跨がる彼。重くないように腰は浮かしてくれているけど、恥ずかしいには違いない。
「でも、嬉しいな。雛が真っ先に呼ぶのが俺だなんて」
何とか体を動かし、抜け出そうとしたけど、ダメだ。芋虫がクネクネしているイメージしか湧かない動きになっている!
「俺から、逃げる気?」
手をつく彼。自然と彼との距離が近くなる。
「まさか、別れるだなんて本気で思っていないよね?」
言われ、はっとする。
そうだ、私。紫暮さんにそんなことを。
今更嘘ですと訂正すれば許してーー
『因みに、ヤンデレに別れを切り出すのはバッドエンドまっしぐらだからね。でも、ヤンデレ病ませるにはこの展開が必須。殺される心配はないと思うけど、監禁快楽コースに突入するから、気をつけてねん。ーーとは言っても、現実でそんな展開は有り得ないわ。手錠とか睡眠薬とか媚薬なんて早々手に入るもんじゃないし。せいぜい、彼に責められるぐらいでしょうね。身の危険感じたら即座に逃げるべし。それかあたしに連絡ちょうだい。ドッキリでした、のプレート持って颯爽登場するから!』
紅葉ちゃんの嘘つきぃ!
大変な事態に突入しちゃったよ!
「あ、スマフォ!紅葉ちゃんに連絡すれば、プレートが……!」
キスされた。
言葉が喘ぎに変わってしまう。
自由な左手で彼の胸に手を添えたのは、喋れないなりに「息が」とした苦しいの意思表示。
いつもならここで、口を離してくれるのにーー窒息しそう。
それに、私確か、寝る前に吐いていたんじゃ。
「っっ、し、しぐっ、待ってくだっ、んんー!」
歯磨きさせて、それがダメなら口をゆすがせて!
どちらも叶わず、結局は一通り舐め尽くされてしまった。
唇が離れる。私の唾液を呑み込む彼は、嬉しげに笑っていた。
「すみ、すみません」
「なんで、謝るの?」
「だって、私ーー口綺麗じゃない、から」
「ああ、吐いたこと気にしてるのか。いいよ、別に。気にしていない。第一、そんな味、“もうしなくなったし”」
はい?と首を傾げてしまう意味深な返しをされてしまった。
「雛が熟睡している間、色々とさせてもらった」
舌鼓を打つ彼に、初めて寒気を覚えてしまった。
色々って、なに。何を、というか、色々されたのに起きない私って。
「紫暮さんアラームなきゃ起きられないダメ人間になってしまったんだーっ」
なんて、限定的な起き方なんだろう。スマフォ壊れたら終わりじゃないか。何をされても起きない。のび太くん以上に酷い遅刻魔になってしまうだなんて。