短編集‥*.°

このまま家に帰れば、少女は一生涯少年に愛されないということは理解していた。

けれど、蛇の他にも何か恐ろしいものが居そうな森に留まるのは、嫌だった。


少女は足を止めた。

――刹那。


月が、瞬間に光を強め、森を照らした。

光の道が少女の前に広がっていく。

少女は無意識に、歩み始めていた。

月の光に、いざなわれるように。



「…あれって…」


しばらく歩いていると、唐突に道が消え、十平方メートル程の平らな土地が現れた。

途端に、月は雲に覆われ、森は再び元の暗さを取り戻した。


森の中に開いた空き地の中心には、一輪の花が咲いていた。


花は、不思議な色をしていた。

薄い黄かと思えば、黄金色に染まり、淡黄かと感じれば、いつの間にか銀へと色を変えていた。


例えるなら、
その花は、月の色をしていた。


朧夜の真夜中に、月色に光る花はとても
美しく映えていた。


「…月ノ花…」


少女は時間をかけてその花に歩み寄った。

目の前に咲く花が月ノ花だと、たやすく信じることはできなかった。


しゃがみ込むと、
一枚の花びらを指でなぞる。

心地の良い、指触りだった。


「…本物だ」


ようやく月ノ花だということを信じた少女は、願いをかけようと、顔を隠すためのフードに手をかけた。


――少女の手が、止まった。


どこからか、声が聞こえた。


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