彼とほんとの私
あなたは誰？
白衣は着ていないものの、先ほど看護師が倉田先生と呼んでいた男が近づいてくる。


今は、洗いざらいの白いコットンシャツにベージュのパンツスタイルだ。こげ茶色のベルトと靴は、よく手入れがされており、高級なものだと一目で分かる。きっと服もブランド品なんだろう。


「じゃ、あなたは誰？」


なぜか、急にドキドキし始めた心臓の音を聞きながらたずねた。






「俺は、倉田智史（ｸﾗﾀｻﾄｼ）22歳。倉田先生の弟だよ。ちなみに、きみを助けにきた」


屈託のない笑顔で、彼は言う。


笑うと、少し幼く見えた。そういえば髪型が違う。倉田先生は、黒い癖のない髪だったのに、彼は、髪を光にかざすと少し茶色く、くせっ毛だ。それが薄い茶色の二重の目とあいまって、やんちゃな感じを受ける。


だが、鼻筋が通っていて、彫りも深い顔立ちは、真面目な顔をすると、気品のある大人っぽい印象に変わる。目を伏せ、縁どる長いまつげが影をつくると、とても色っぽい。彼の唇がゆっくりと動く。


「何も言ってくれないんだな。俺は、きみのことが気になっているのに」


彼はそう言うと、私との距離を縮めた。


声は、低く染み入るようで、私の心を揺さぶった。


「あ、あなたじゃ、私を助けられないわ」


心臓のドキドキを覚られないように、精一杯きぜんとした態度で言った。


「なぜ？」


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