カメカミ幸福論
彼女は営業課への配属だったはずだ。だけど私のいる事務所が総務であるために、会社内の大体の人間は係わりがあった。あの子も、私のことを最下位程度の人間だと見下してくれている。
背後をふわふわ浮きながら、ダンは小首を捻っているようだ。神には人間同士の瑣末なゴタゴタなど判らないらしい。
私は自席にようやく戻ると、ふううう~っと小さく息を吐いて精神を統一した。
ダンは、無視。
周囲も、無視。
私は今目の前にある、本当ならとっくの昔に終わってしまっているはずの書類を片付けて、何とかランチタイムに間に合わせること!
よし!
ひっさしぶりに気合をいれた。それからわき目もふらずに書類の処理をし始める。こんなに仕事に集中したのは、当時の課長に「君はここまで」と言われて以来だったような気がする。
途中で事務所の中がシーンとなり皆が私を見ているような気がしたけれど、没頭していたために本当にそうだったのかは判らなかった。
後ろに、神が浮かんでいる。私はそれを無視したいが為に、一時的にではあるが、昔の私に戻っていた。
「驚きましたよ~。何があったんですか、亀山さん?」
私の目の前でお弁当を開きながら、美紀ちゃんがニコニコと笑いかける。今日も栗色の長い髪の毛を器用に頭の上でまとめていて、清楚な美人さんだった。
私は集中したせいで疲れた頭をもみながら、何が?と返事をする。