カメカミ幸福論
私は菓子パンに齧り付きながら低い声で言った。
「カメカメうるさいわね!私のことなんかどうでもいいでしょうが、もう、ほっといてよ暇人」
メゲるかと思ってわざときつく言ったのに、小暮は負けずに隣の椅子を引いて座りだした。
「いや、マジでさ、カメ。俺ら同期の中では言ってたんだよ。お前なら、この会社の伝統を破れるんじゃないかって。女性初の課長職とか、なれんじゃないかって。なのにアッサリとフェードアウトしちまうからさ」
・・・何よそれ。私は隣でベラベラ喋る同期の口をアンパンで塞いでやろうかと一瞬考える。だけど勿体ないからやめた。それに一応、ヤツは上司の立場だ。
「私はそんなつもりないわよ。ただ今日は集中しなきゃならない都合があったってだけ。ほら、昼休み終わっちゃうわよ、戻れば、自分のとこに」
小暮と美紀ちゃんが顔を見合わせて、苦笑する。あーあ、ってそんな感じで。私はそれを見えないふりをして、スープを飲み干した。
「じゃ、まあ行くわ。とにかくカメ、また同期で飲みに行こうぜ、俺幹事やるからさ」
「・・・営業課長のクセに、暇なのあんた?」
「寸暇を惜しんで遊ぶのが、独身の正しい姿だろ!」
「さよか」
呆れて肩を落とした私の背中をバンバン叩いたあと、小暮は美紀ちゃんに微笑む。
「山本さん、お疲れ」
「お疲れ様です!」
「さよーなら」