素顔のキスは残業後に
一生分の涙を流したあの日から、私は自分の感情を上手くコントロールするようになった。


『一人でお留守番? しっかりしてるわね』


道端でそんな風に声を掛けられて笑顔を返す。挨拶もきちんと出来る。
町内会のお掃除だって進んでやる。

近所でも評判の聞きわけのいい女の子と噂された。


寂しくないわけなかった。
でも弱い自分を偽るのは意外と簡単で、母にも誰にも気づかれることはなかった。


そうやって感情を上手くコントロールすることに慣れた私は、大人になってもそれを続けた。

だけどそれは、母を想って涙を堪えたあのときとは違う。
誰かを強く求めて拒否されるのが怖いだけ。


だからいつだって深く追い求めることはしない。

それは誰のせいでもない。自分の弱さが生み出した防御策だ。

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