素顔のキスは残業後に



「いつもそうしてるのな。痛む…のか?」


柔らかく髪に触れる指先のあたたかさが、いたわるような優しい瞳が、
簡単に涙腺を緩ませてしまう。

こんなに古い傷。
見た目にだって完治してるって分かるはずなのに。どうして彼には分かっちゃうんだろう。



一生分の涙を流したあの日のことを思い出す。
古傷を指で触れて深呼吸をする。


そうすればいつだって、溢れそうな想いに蓋をすることができた。

それは誰も知らない私だけの秘密のおまじない。
誰にも気付かれることはなかった。


気付かれたくない。そう思っていたはずなのに――……

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