素顔のキスは残業後に
「――いぇ。なんでもないです」

花形さんは悪かったけど、ものすごく怖いんですけど。切れ長の瞳でジロリと睨まれるだけで、私の中の小さな勇気。萎んでいくよー……。

でも、と思い直す。

この状況で顔見知りに会ったのはラッキーだと思うし。

でもねぇ、こんな敵対関係で助けてくれるかな?

いや、無理でしょう。でもでも、頑張ってお願いしてみる? 

ははっ。だからぁー無理だってば、止めておこうよ。

脳内でそんなこんなと迷っていると、彼の腕を掴んでいる私の手が彼の空いている右手に掴まれる。
あっと声をあげるひまもなくそのまま引き寄せられた。

夜風に彼の整髪料の匂いが混じる。体と体があと少しで触れそうな距離。

微かに震える胸は彼の吐息が頬にかかると、確かな響きになっていって、「だから、なに?」と低く掠れた声が私の頬に落ちた。

顔を斜めに覗き込まれるだけで息が苦しくなるなんて、ねぇ? イケメンフェロモンの凄さを知ったよ……。

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