素顔のキスは残業後に
鼓動の響きが聞こえてしまわないように、心の中でちょっとふざけてから、勇気を持って切り出した。

「あのっ。実は私達、まったく知らない仲じゃなくてっ」

「――…あぁ、そうだな。なかなか相性も悪くなかった」

「え?」

あれ? 会話が噛み合わない。
仕事で関わったことも、話したこともないはずなのに。

不思議いっぱいの顔で至近距離にある顔を見つめ返すと、柏原 柊司は意味深な笑みを浮かべる。
艶っぽく細まる瞳。彼の黒髪が私の鼻先を掠めて耳元でそっと囁かれた。

「朝まで過ごしたこと、あったろ?」

耳たぶを掠めた甘い囁きに心臓が止まりそうになる。

「えぇ――――!?」

由梨さんの恥も忘れて、喉からありったけの声があがった。

ちょっと、誰と間違ってんの!? ――ってか、そんな特別な方と間違うなんてあり得ないでしょ!

どこから突っ込めばいいのか分からず、口が半開きになる。柏原 柊司はそんな私を見て、ぷっと吹き出してから、

「騒ぐな。冗談だ」

と言葉を失くす私にサラリと言ってのけた後。

「変な女」

そんな失礼な一言を付け加えてから、私の腕を解放した。
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