素顔のキスは残業後に
勢いよく開かれる傘。

スラリと伸びた長い腕が私の肩を引き寄せて、少し開いていた二人の距離を縮める。

それだけで、トクンッと胸が震えてしまう。
ただそれだけで、無駄な対抗心がシューッと音を立てて萎んでいく。


なんて単純なんだろう。

そう思うと、少し情けなくなるけど認めるしかない。


こんな会話でさえも楽しんでいる自分を――……






時間は夜の7時を過ぎていた。

ぶらぶらと歩いていて見つけた創作レストランは、数日前に新しくオープンしたばかりらしい。


店内にそれほどお客さんはいなかったけど、
細かな装飾のオブジェやオーガニックなディテールを取り入れた内装は大人びた雰囲気を醸し出していた。


行き過ぎないサービスと舌を唸らせる味も、この街に住むことになったらまた来たいと思わせるもので、

居心地の良い雰囲気に流されるように、気が付いたら時計の針は22時を挿していた。






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