素顔のキスは残業後に
「えっ」



私はどれだけ気の抜けた……
いや。魂の抜けた声を漏らしていたんだろう。


「あっ。もしかして、明日早かったですか?」


「いや。予定とかあるわけじゃないけど」


「それなら、もう一軒行きませんか?」


自然な流れで誘ったつもり。だけど私の申し出に柏原さんは瞳を曇らせる。



「――…悪い、やめとく。マンションまで送ってくから」


そういって優しく髪を撫でられる指先の感触に、

一瞬揺らいで見えた瞳に、

胸が締めつけられるような想いに駆られる。
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