素顔のキスは残業後に
だけどそんな風に優しく髪を撫でられたら、苦笑いしか返せない。


頬を引き攣らせて無理矢理作った笑顔。
次の1軒はただの口実だったことに気付く。


今日は一緒にいたい……

そう強く思ってしまう。でも、柏原さんは違うのかな。


気のせいかもしれない。

だけど、少し前に彼が一瞬見せた瞳。暗い影を落とした瞳がすごく気になって、
前を歩き出した彼に大きく歩幅を取って追いつく。

迷う気持ちを振り払うように長い息を吐き出す。


いつまでも臆病な殻に閉じこもる自分を変えたい。


そんな突き動かされる想いに押されるように、前を歩く彼の指先にそっと触れた。



「今日は……一緒にいたいです」


自分でも情けないほどの弱々しい声。

少し声が震えてしまったこと。気付かないでほしい。


不意打ちなそれに私を見下ろす彼の瞳が驚きの色を帯びる。
< 193 / 452 >

この作品をシェア

pagetop