素顔のキスは残業後に
総務部へ戻る前にほんの少しの寄り道ぐらいいいよね。

会社の経費で飲み歩く部長に文句は言わせないんだからっ。


五月さんに片手を振って備品室へ向かおうとすると、方向転換した私の手がグイッと引かれる。


「やっぱ、分かってないじゃん」


首を斜めに傾けた五月さんに習って同じようにする。

彼女は私が知っている場所とは違う方向を指差した。



「宣伝部の秘密のサボりスポットは、非常階段だよ。いまの時期寒いんだけどねー。沈んでいく夕陽に癒されるよー」


五月さんのカラッとした笑い声が二人しかいない廊下に響き渡ると、


ドクンッ


何かの警笛のように鼓動が加速していく。


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