素顔のキスは残業後に
触れ合う度に気持ちが溢れて、

手が触れる距離にある幸せをこれからも大切にしたいと思ったことを思い出す。


柏原さんの言葉に偽りはなかったと思う。

だけど、私達はまだ始まったばかりだった。

もし、そういうことなんだとしたら――……


胸を襲う痛みから逃れるように瞳を閉じる。


天井に向けた顔を下ろしてまぶたを開くと、滲んでいる視界の隅に左手が映った。


小指にある古傷をそっと指でなぞり、気持ちを落ち着かせる為に小さく息を吐いた。


幼い頃から続けたおまじないは

今日も役立ってくれた。

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