素顔のキスは残業後に
「ん? いま、なんか変な声したけど、誰かいるのか?」


「いえ。うちの猫がおならをしただけです。昨日の残業のことなら気にしないでください。

年内に片付いてよかったですよ」


落ち着き払った柏原さんのフォローに、「なんだお疲れって仕事のことか」と心で呟く。

(冷静に考えれば、それはそうか。でも、猫がおならって、――……)


「そう言ってくれると有難いなぁ。でも、そうかぁ。柏原が猫派とは知らなかったなぁ。実は、俺も猫派でな」


柏原さんが咄嗟についた嘘をまるっと信じた部長は、溺愛しているという飼い猫の話をし始めた。


へぇぇー。5匹も飼ってるだなんて、意外だなぁ。

仕事で直接関わったことはないけど、強面な部長の意外な一面に思わず聞き入ってしまう。


いま置かれている状況をしばし忘れて耳を傾けていると、私のお腹の前で大人しくしていた指先が滑らかに活動を始めた。


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