素顔のキスは残業後に
それは部長が電話を切る前に言ったセリフ。

部長もまさか『その彼女』が――……

いま、その瞬間、彼の腕の中にいるとは思わなかったんだろう。


部長を騙しちゃって悪いなぁと思いながらも、抱きしめられた腕の中で幸せの熱を感じてしまい、

自分からその腕を振り解くことができなかった。


それから部長との電話を終えた柏原さんと買い物へ行き、彼のお手製の年越しそばを頂いて紅白を見ていたら、

今年も残すところ『後30分』な時間になっていた。



「行きたいところがある」

数分前にそう告げた柏原さんの運転で、車は勾配の急な坂道を駆け上がっていく。


生ぬるいエアコンの温風が足元を温めてくれる車内で、隣にある横顔をそっと見つめた。


彼女を大切にしろって部長は言ってたけど。

大切にされてるよね。本当に、そう思う。

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