素顔のキスは残業後に
柏原さんと付き合うようになって、その噂はあっという間に社内に広がった。

年末の忙しさもあると思うのに、他部署の女子が連日総務部を訪れて、中には私に鋭い睨みを利かせる子も何人かいたけど、

それでも予想していたよりはずっと少なかった。


それは『タキシード王子様事件』を目撃した総務部のみんなが、正しい噂を流してくれたっていうのもあるけど。


(社内での柏原さんの立ち位置を考えたら、私が彼に色目を使って落としたとか。あることないこと騒がれても、おかしくないもんね)


柏原さんがうちの部長に言い放った言葉を思い出す。


「ありますよ、特別な感情。問題ありますか?

桜井は仕事が出来ますから。仕事が出来る女性には惹かれてしまうんです」


その場にいるすべての人の視線を奪った迷いのない瞳が、

少しだけ照れくさくて。でもすごく嬉しかった。


柏原さんは毎日愛を囁くようなタイプじゃないけど。


(いや、日本人じゃ滅多にいないとは思うけど)


もう何度も頭を反芻しているその言葉は思い出す度に胸を温かくしてくれるから、

この先二人の間に何かあったとしても、あの時のことを思い出せば乗り越えていける。

そんな気がした。

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