素顔のキスは残業後に




「やっぱり不器用な奴」

「ごめんなさい」


目的地に到着した車内。

シートベルトを外そうと苦戦する私に呆れた視線が流された。

運転席から腕を伸ばした柏原さんがシートベルトのロックが解除をしてくれて、「こんなこと前にもあったな」と思いながら助手席のドアを開けると、


「あっ、ここは」


見覚えのある風景に声を張る。

ぼんやりしてたから到着するまで気づかなかったけど、付き合う前に柏原さんとドライブで来たあの場所だった。

あの時より厳しくなった寒さが吐き出す息を一瞬で暗闇に溶かして、ぶるっと肩が震える。

後部座席に置いたコートを取ろうと振り返ったら、背中からふわりとコートを掛けられた。


「寒いから着てから降りろって、前にも言ったろ」


お礼を言いながらAラインのベージュ色のコートに腕を通してボタンを留めると、


「時間ないから、もう行くぞ」

少し早口になった柏原さんに右手を取られて、「えっ」と思わず声が出た。


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