素顔のキスは残業後に
だから何度も「ダメ」って心に言い聞かせていたのに。

どうして、こんな話をしてしまうんだろう。

まぶたの裏に何とか涙を押し戻す。
ビニール手袋を流しに置きに行った彼の隣に立った。



「えっと。いまのは、お腹の中にいるペットが話してました」

「流暢な日本語だな」


「そうなんです。なかなかやりますよね?」

「あぁ」

「だから――……本当にすみませんでした。あっ。これは私が代わりにってことで」


小さく笑った私に、彼の頬がわずかに緩む。
「ところで鍋はあるんだろうな」と軽く睨みを利かされて、料理の続きに戻っていった。
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