素顔のキスは残業後に
淡々とした言葉がそこで途切れる。

彼は立ち昇る湯気を気にするように鍋の火を止めてから、視線を私に向けた。

引き寄せられるような優しい眼差しが私をまっすぐ見つめる。
胸がトクンと音を立てた。


「だから俺だって――…そんなに器用に、上手くやれてない」


低く掠れた声に目の奥が熱くなる。


あぁ、そうか。

どうしてこんな話を、多分他人には知られなくない想いを、

どうして話してくれたのかがようやく分かった



「それに料理できない女がぁ――なんて言ったらな。五月なんて酷いもんだ。アイツ、米を洗剤で洗うんだからな」

「えっ、そうなんですか!?」

「いや、想像だけど。そうだろ、きっと。だから間違ってセレブ婚なんてしてみろ?
不思議系の料理を連発して保険金詐欺を疑われる」
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