【B】姫と王子の秘密な関係





アキラさん


こんばんは。
今までバイトで遅くなりました。

ってか、アキラさんから
連絡いただけてびっくりしてます。

今から夕飯食べるので、
21時半くらいに電話しますね。



乙羽








慌てて晩御飯を食べて、
そのまま21時半、
不在着信から再度電話番号を呼び出して
勇気を出して発信させる。


「もしもし」


暫くするとアキラさんのテノールボイスが
聴覚を刺激する。


「こんばんは。
 アキラさん、乙羽です」

「あっ、電話掛けなおすから一度切るよ」


サラリと告げられると、すぐに電話は切れて
再び、私の携帯が着信を告げる。

モニターに映るのは【アキラ】の文字。

「もしもし、乙羽です」

「久しぶり、乙羽ちゃん。

 少し声が元気ないみたいだけど、
 何かあったのかな?」



電話の向こうから聞こえる
アキラさんの声が優しく、
私の心の中に染み渡ってくる。



「あ……大丈夫です。

 ちょっと進路のことでウダウダ
 考えてこんでしまってたんで」



必死にそれ以上、泣き言を言わないように
堪えながら伝える精一杯の言葉。



「そう。
 進路の悩みか……。
 それは俺が相談に乗ってもいい内容かな?」

「…………」



突然の言葉に何も答えられず沈黙だけが流れた。



「イベントでしか出逢えてないけど、
 俺は、乙羽ちゃんのことが気になってる。

 僅かな時間でも、乙羽ちゃんと過ごせる時間は
 俺を現実から解放して、穏やかにしてくれる。

 だからかな……もし、俺が君の為に役に立てることがあるなら
 遠慮なく頼ってくれると嬉しいな。

 乙羽ちゃんには、香寿さんだったかな。

 頼もしい友達もいるみたいだけど、
 近すぎる親友にも話せない秘密も人は一つや二つ持ってるだろう。

 そんな悩みに捕らわれた時は、近すぎず遠すぎず適度な距離の誰かに
 甘えるのも方法だよ」



強制でも押しつけでもないけど、
アキラさんの心は、私の中に真っ直ぐに降り注いで
必死に制御しようとしてる私のフィールドを通り抜けるように
優しく包み込む。
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