めぐりあわせ
帰り際…
「私、家まで歩いて帰れるので、ここで失礼しますね」
「いやいや、愛花ちゃん、夜だし危ないよ!」
「本当に近いんです」
「女の子を一人で、帰らせるわけにはいかないよ!」
中原さんは、私の手を掴んで、車の助手席に乗せてくれた。
「すみません」
「道案内してくれる?」
「はい」
短い時間だったけど、中原さんは、夢の話をしてくれた。
「実はさ、俺も独立したいと思ってるんだ」
「そうなんですか?」
「一応、今のプロジェクトが終わってから会社を退職しようと思ってる」
「え?!もうすぐですね」
「準備は進んでて、杉本にもアドバイスもらったりしてるんだ」
中原さんの夢の話をしながら、私の道案内で、マンションの前に着いた。
車が止まり、少しの沈黙があった…
その後、中原さんは私の右手を握った。
「独立したら、事務所の立ち上げ手伝ってくれないかな?」
「え?」
「今すぐ返事しなくていいよ。考えて欲しい」
「…」
「返事待ち、二つになっちゃったな…」
「あっ…はい」
すると中原さんは、私の右手を少し引っ張って、私の頬っぺにそっとキスをした。
えっ?
キス?
「ごめん。なんか舞い上がってた…」
「あ…はい…あの私降ります。すみません送っていただいて、ありがとうございました」
訳がわからないまま私は、ドアを開け、車から降りた。
ぼーっと立っていたら、窓が開いた。
「じゃっ、おやすみ」
「おやすみなさい」
結局、一つ目の返事が出来なかった…
しかも、もう一つ返事をしないといけない。