呉服屋の若旦那に恋しました
だから、私は嘘をついた。
今にも壊れそうな志貴を、救うために。
「衣都ね、今日の朝、体に何かが入った気がしたの」
ただ、必死だった。
「あれはね、きっと桜ちゃんのたましいだったと思うの。だからね、桜ちゃんのたましいは、衣都がちゃんと預かりました」
志貴の悲しい顔を、もう見たくなかった。
「だからね、桜ちゃんに会いたくなったら、衣都に会いに来て? 志貴兄ちゃんは、言ったよね? 桜ちゃんが生まれたら、一緒に浴衣を着て、手を繋いでお散歩するんだって」
お願いだよ、死ねばよかったなんて言わないで。
どんなに悲しいことがあっても、どんなに自分を責めることが起きても。
「だから、衣都と一緒に浴衣でお散歩しよう。衣都が小学生になったら、ランドセル背負ってる姿見に来てね。衣都が中学生になったら、セーラー服着てるの、見に来てね」
―――志貴に、生きて欲しい。
あなたがいなくなったら、悲しい。とても悲しい。
「衣都は、桜ちゃんと一緒に、成長していくから、だから、志貴兄ちゃんはちゃんとそれを見届けなきゃ駄目だよっ……」
「衣都……」
「しんじゃったら、衣都と桜ちゃんと、浴衣来て散歩できないよっ……」
志貴が、私を力強く抱きしめた。
さっきとは違う、優しく力強い、抱きしめ方。
私と志貴は、2人してわんわん泣きながら、抱きしめあった。
「衣都、ありがとうっ……、衣都がいてくれて、良かったっ……」
―――志貴の、震えた声と、大粒の涙と、温かい腕が、今でも記憶に残っている。
志貴は、私がお願いした通り、私と出かけるときはいつも手を繋いでくれて、幼稚園の入園式も、小学校の入学式も、中学校の入学式も、来てくれた。
私が志貴を救うためについた、大きな嘘。