呉服屋の若旦那に恋しました
「今年の夏は短かったなあ」
省三さんが、夕飯のそうめんを食べながら、しみじみ呟いた。
静枝さんも、それに穏やかに頷いた。
私は静枝さんのお古の浴衣を着て、同じように、そうですね、と言った。
戸をあけて、中庭の景色を見ながら食べる夕食。縁側にぶら下げてある季節外れの風鈴が、ちりんと鳴った。
「衣都ちゃんは、お母さんのお墓参り、ゆっくり行けたか?」
「はい、志貴も一緒に来てくれました」
「そうか……」
省三さんは、すっと目を細めて、どこか切なげに微笑んだ。
「私達も行ったよ。お店んことがあるから、前日になってしもたけれど」
「え」
「……そういえば志貴に、無理矢理指輪をはめられそうになったんだってな」
省三さんは、突然話題を変更した。
私は少し戸惑ったが、とりあえず笑って頷いた。
静枝さんはその時の状況をこと細かに省三さんに伝えた。それを聞いた省三さんは、本当に呆れたと言うようにため息をついた。
「ほんまにあいつは困ったやつやな」
「ええ、ほんまに。あなたが一度がつんと言ってやってくださいよ」
「衣都ちゃん怖がらしてどないするんや。あいつはほんまにモテへんタイプやな」
いやいやいや……お2人は知らないのだろうか。志貴の数々のモテっぷりを……。
多分あの人がモテなかった年なんて、なかったんじゃないだろうか。
そう思いながら、私は糸のように細く滑らかなそうめんをすすった。
「衣都ちゃん、あいつと一緒んいることが嫌んなったら、いつでもこっちに来てええからね」
「いえ、そんな……全然嫌とかじゃ、ないです!」
「……何か引っかかることがあるんか?」
「………」
省三さんが、どうしたん? とあまりに優しい瞳をするから、誰にも話したことはなかったのに、するすると口から出てしまった。
私は、志貴についてしまった嘘を、19年前の記憶をたどりながら、途切れ途切れに2人に話した。
自分で解決しなきゃいけないことなのに、誰かに聞いてほしくなってしまったんだ。
2人は、私のたどたどしい話を、黙って聞いてくれた。
私が志貴についてしまった嘘、それを謝りたいこと、私はちっとも特別な子なんかじゃないってこと。
自分を戒める様に、過去を振り返った。