呉服屋の若旦那に恋しました
その言葉の続きを言わずに、静枝さんはただ穏やかに微笑んだ。
そして、できればこのことを志貴にも話してやって欲しいと、そう言った。
衣都ちゃんのことを、嫌いになるわけないからって。そんなの100%ありえないって。
私は、なんだかまだ気持ちの整理がつかなかったが、その言葉にかなり背中を押された。
このことを志貴に伝えなきゃ、もうこれ以上距離は縮まらない。
だったら、話せるのは今なのかもしれない。
この2人に背中を押してもらったうちに、伝えたほうがいいのかもしれない。
ふと、1人でご飯を食べている志貴の背中が思い浮かんだ。
ついこの間も、志貴を1人にさせてしまったばかりなのに。
志貴は今、どんな気持ちで1人でいるのだろう。
そう思うと、急に胸の中がぎゅっと苦しくなった。
「静枝さん、ごめんなさい、私、志貴のところへ……」
「よう暗いから、途中まで送るわ」
静枝さんは、涙を綺麗な細い指で掬って、すっと立ち上がった。
省三さんが、またいつでもおいで、と微笑んだ。
私は、どうしてこんなに優しくしてもらえるのか、理解できないまま、ぺこっと頭を下げて、志貴の家へ向かった。