呉服屋の若旦那に恋しました
「ねぇ、志貴、私が、3歳の時に言った言葉、覚えてる?」
そう言うと、志貴は笑うのをやめて、何かを悟ったように、あの神社でのこと? と、言った。
「私、ずっと志貴に謝らなきゃいけないことがあるって、言ったよね。指輪を受け取れなかったのは、そのことが原因なの……」
「……うん」
志貴が、私の背中にぎゅっと腕を回した。
「私、志貴に嘘をついた……」
「嘘? そんなの俺だって沢山ついてる」
「違うの、志貴の人生を大きく変えちゃった嘘」
「……どんな嘘?」
「桜ちゃんの魂は、衣都の中に入ったって言ったの覚えてる?」
「……覚えてるよ」
「あれね、嘘なの」
「ぶ、アホか。そんなのとっくに分かってるわ。俺がスピリチュアルな話全然信じないの知ってるだろう」
「ちがうのっ」
私は、少し声を荒げた。
ちゃんと、言わなきゃ。向きあわなきゃ、過去と。
自分がついた、嘘と。
「私を、桜ちゃんと同じように見守ってって、言ったの。あの時私、志貴に生きて欲しくて、本当に無責任で無茶なことを言ったのっ……」
「衣都……?」
“衣都は、桜ちゃんと一緒に、成長していくから、だから、志貴兄ちゃんはちゃんとそれを見届けなきゃ駄目だよっ……”
―――ただ、必死だった。
志貴の悲しい顔を、もう見たくなかった。
死ねばよかったなんて言わないで欲しかった。
どんなに悲しいことがあっても、どんなに自分を責めることが起きても。
志貴に、生きて、そばにいて欲しかった。