呉服屋の若旦那に恋しました


「ねぇ、志貴、私が、3歳の時に言った言葉、覚えてる?」

そう言うと、志貴は笑うのをやめて、何かを悟ったように、あの神社でのこと? と、言った。

「私、ずっと志貴に謝らなきゃいけないことがあるって、言ったよね。指輪を受け取れなかったのは、そのことが原因なの……」

「……うん」

志貴が、私の背中にぎゅっと腕を回した。

「私、志貴に嘘をついた……」

「嘘? そんなの俺だって沢山ついてる」

「違うの、志貴の人生を大きく変えちゃった嘘」

「……どんな嘘?」

「桜ちゃんの魂は、衣都の中に入ったって言ったの覚えてる?」

「……覚えてるよ」

「あれね、嘘なの」

「ぶ、アホか。そんなのとっくに分かってるわ。俺がスピリチュアルな話全然信じないの知ってるだろう」

「ちがうのっ」

私は、少し声を荒げた。

ちゃんと、言わなきゃ。向きあわなきゃ、過去と。

自分がついた、嘘と。


「私を、桜ちゃんと同じように見守ってって、言ったの。あの時私、志貴に生きて欲しくて、本当に無責任で無茶なことを言ったのっ……」

「衣都……?」


“衣都は、桜ちゃんと一緒に、成長していくから、だから、志貴兄ちゃんはちゃんとそれを見届けなきゃ駄目だよっ……”


―――ただ、必死だった。

志貴の悲しい顔を、もう見たくなかった。

死ねばよかったなんて言わないで欲しかった。

どんなに悲しいことがあっても、どんなに自分を責めることが起きても。


志貴に、生きて、そばにいて欲しかった。


< 139 / 221 >

この作品をシェア

pagetop