呉服屋の若旦那に恋しました
「ごめんね、桜ちゃん、ごめんね、志貴っ…、私はちっとも、特別な子なんかじゃないのに。この志貴の優しさは、本当は桜ちゃんに注がれるべき優しさだったのに…っ」
「……」
「私が嘘をついたせいで、私は、志貴の人生を、縛っちゃった……っ」
「……衣都」
「奪っちゃった、志貴の人生をっ……、私は志貴に優しくされるたび、どこかでずっと罪悪感を感じてたっ……」
「衣都」
「本当は、あんな言葉もう忘れて欲しいって思ってた、もう私なんかに構わないで欲しいって……怖かったの、志貴の優しさが、ずっと怖かったのっ……」
「衣都、聞いて」
「志貴のことが好きなのに、志貴の優しさが怖かった……、私は、志貴にそんなに大切にしてもらえるような、特別な子なんかじゃないのにっ……」
「衣都っ」
志貴が、抱き着いていた私を、両肩をつかんで離した。
それから、私の頬を伝っている涙を親指で拭って、
「それは、本気で言ってることなのか……?」
と、言った。
私は、ほろほろと泣きながら、こくりと頷いた。
「バカだな、衣都は……」
「ごめんなさい……」
「許さない」
「……っ」
「そんなことで、俺と近づくことを躊躇っていたのなら、許さない」
「え」
「俺が、あの時の衣都の嘘に、どれだけ救われたか、知らないのか…?」
志貴が、本当に苦しそうな、愛おしそうな表情で、私の頬を両手で挟んだ。
私は、まだ志貴の言葉の意味が、理解できていなかった。