ラブレター2
「いけ…いけ…。」

ボーリング球が、滑らかにピンを目掛けて、転がっていく。

気持ちの良い音をたて、それ達が横へ逃げたり、宙をクルクルと舞った。

「よし、きたぁ!!」

小さなガッツポーズをして、あいの方を見た。

「あいも、ストライク出すもん。」

負けず嫌いなあいに笑いながら、

「よし。出してこい。」

と言うと、あいは重たいボールを小さな手で持ち上げた。

彼女の耳には、もう僕の声は届いてはいないみたいだった。

…無言のまま、ボールを放り投げたあいは、最後までそれを目で追い掛けている。

上手い具合いに、真っ直ぐ転がって行くボールを、僕も、あいの背中越しを通して見ていた。

「きた、きた~!!」

一度、その声を聞いたあいが振り替えり、笑顔を見せて、もう一度正面を見直した。

僕は、オーバーリアクションだ。と言わんばかりに頭を抱えた。

真っ直ぐ向かっていたはずのボールが、ピンに当たるか当たらないかの際どい所で、左に逸れてしまった。

今しがたの笑顔が、いつの間にか不機嫌さんを連れてきた。

「根性、曲がってるからだよ。」

笑いながらあいに言うと、違うもん。と隣りに座ったあいが言う。

決してバカにしている訳ではないが、どれだけカーブを練習したの?と言いたくなるくらいの曲がり方だった。

あいの頭を撫でて、よーし。と自分の番をこなす。

時たま、ストラーイク。と叫ぶと、絶対に、凄いね。とか、お誉めの言葉はもらえない。

「あいも頑張るもん。」

と、本当に負けず嫌いなあい。

あまりにも、急カーブを得意とするあいに、アドバイスをしてあげる。

「左に曲がるなら、下に書いてある矢印を目安に、もっと右から投げてみたら?」

何度も言うが負けず嫌いなあい。

だから、僕の言葉を素直に聞き入れたあいが、頑張って右から投げ出した。

…鈍い音を立て、ゆっくりと右側だけを通って行くボール。

「極端。」

きっと、僕のアドバイスが悪いらしい。

「なら、真ん中から投げて、右のピンを倒すように意識して。」

頷きながら、二投目を放る彼女。

心の中で、行け、行け。と願ったことは言う間でもない。

すると、真っ直ぐに行くボール。

また、曲がる。

いや、曲がらない。

音をたてながら、力が無い分、ピンがゆっくりと倒れていく。

心惜しさを残すピンが機械に連れられていく。

ただ、嬉しそうな顔をするあいに、また恋をする。

何度も、何度も。

そんなことを知らないだろう彼女は、次の番が来ることの方が、愛しいみたいだ。

それに嫉妬する僕は、

「まだまだだな。」

なんて言っても、いいもん。と返事が来るだけ。

「おらあぁぁ~。」

と、力いっぱいに放つボールは空回りし、一本しか倒れてはくれない。

それを笑う、あいも好き。

ボールを持ったまま待っているあいに、早く投げさせてあげたくて、スピード違反なボールを、続け様投げるように心掛ける。

どうにかこうにか、曲がらなくなったあいが放つボールに、ストライクを出させてあげて。なんて願うが、早々出るものでもない。

ん?

早々、出るものみたいだった。

「きた~。」

と、喜ぶ二人は、まるで、子供みたいだった。

「俺のアドバイスのお陰だろうな。」

「あいの実力~。」

喜ぶのを良いことに、その場で抱きつこうとしたが、

「恥ずかしい。」

彼女からの拒否宣言が下される。

不機嫌な顔をしただろう僕に、

「後で。」

と嬉しいことを言ってくれるあい。

ご機嫌さんは、また張り切ってボールを投げていた。

前金制だったために、ボールを直して、駐車場へと足を運ぶ。

興奮が冷めないくらい、楽しかった。

帰り道にコンビニへ寄って、乾いた喉を潤し、暗い山道に、車を止めての無駄話。

「星、綺麗だね。」

「うん。」

疲れたからなのか、会話が続かない。

「ねぇ…。」

「うん?」

「やっぱり、いいや。」

「なに?言って。」

「ん~。好きだよ。」

ねぇ、もし、愛に形があるなら、どんな形だと思う?

「うん、あいも好きだよ。」

きっと、現実には無いけれど、あるとしたら、小さい物だと思う。

「好き。」

そう言って、覆い被さるように、あいを抱き締めた。

きっと、それを見付けるのは難しい。

やっと、見付けたとしても、硝子(ガラス)の様な、小さな玉だと思う。

衝突し合う度にヒビが入ると思うし、それは決して、強くはない。

だから、大事に…大切にしないと壊れてしまう。

知っているから。

ただ、今だけは、あいだけは、言葉より、抱き締めることが大事だと思ってる。

あいなら、この気持ち、気付いているよね?
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