ラブレター2
『ごめん。』
『また、会えない?』
『ゆうくん。』

分かってる。

自分がどんなに、あいを好きなのか。

あいが、どれほど愛をくれているのか。

一人部屋に閉じこもって、考えていた。

『少しだけなら。』

言葉が不器用な僕に、あいは、ありがとう。と言ってくれた。

『着いたよ。』

メールが来ても、数分しても、部屋から足が動かなかった。

特別な、携帯の着信音が鳴り響く。

「着いたよ。」

「会うなら、笑って会いたい。」

困らせたのは僕なのに、何処までも、どうしようもない自分がいる。

「うん。笑ってるよ。」

それに答えを出さずに、電話を切り、玄関へ足を向ける。

目の前に、一台の車が、さっきと同じように、止まっている。

どんな顔をして、会おうか。の不安と。

「何?」

「はい。一日遅れのバレンタイン。」

零時過ぎの、泣いた後の目が、笑っている。

「いらない。」

素直になれない、僕がいる。

「貰って。」

壊れるくらい、好きなのに。

「仕方ないから貰ってやる。」

袋の中を覗くと、チョコレートではない物が入っていた。

「これ、ケーキ。ちゃんと、食べてね。」

バレンタインは、チョコレートだろ?と疑問を感じたのは、僕だけだろうか。

「手作りが良かった。」

あいに、僕は何をしてあげれるのかな。

「いつかね。」

それは、いつになるのかな。

素直に喜べない、自分が嫌いだった。

「明日、学校だよね?遅くなるとダメだから、もう帰ろう?」

ドアに手をかけると、あいが目を閉じていた。

「何?」

「チュー。」

眉間に皺を寄せていた僕だけど、つい微笑んでしまった。

その優しさが、僕の気持ちを離してくれない。

もう傷付けないから。と自分に誓い、喧嘩とかしても、また仲直りすればいい。と願った日。

「これ、ありがとう。じゃーね。」

うん。と、あいが笑って、車が動き出す。

それを見送った後に、体を摩(さす)りながら、部屋へ戻った。

それは、緑の文字で書いてあったんだ。

『緑の文字は、目に良いんだよ。』

あいをね、もう、離したくない。って、思ったんだ。

そこには、ケーキと一枚の封筒が入っていた。

あのね、何故、二回目に会うのが遅くなったか分かった。

気のせいかもしれない。

今、手にしているこの手紙ってさ、今さっき、書いたんだよね。

だって、今日最初に会った時に、見てしまった袋の中の封筒の色と…違うよね。

この手紙には、いろんことが、書いてあった。

キスしたこと。

エッチしたこと。

喧嘩もすること。

赤ちゃんのこと。

全部、

嬉しい。

と言ってくれた。

ありがとう。と言ってくれた。

汚い字で読みにくいでしょ?なんて、あいらしくて、可愛くて。

『汚い字でも、読んであげたよ。』

なんて、素直になれなくて。

『ケーキも、食べたよ。』

手紙なんて、今時、流行らないのに。

恥ずかしさ。や、照れ。が邪魔して、その話題には触れなくて。

だけど、ちゃんと言えたかな?

いつも、ありがとう。って。

言わなくても、君なら分かってる。って、そう思ってるからさ。

『ケーキ、美味しかったでしょ?少し、有名な所で買ってきたもん。』

黒い機械字で書かれた手紙よりも、今読んでいる手紙で、お腹いっぱいです。

『あいが、作ってほしかった。』

その優しさに、何度、泣かされるんだろう。

『作るの下手だけど、今度頑張ってみるね。』

狭い部屋で、体を丸めながら、薄明かりの中で、読んだ二枚の手紙。

今日、三回も読み直した。なんて言ったら、また、笑ってくれるかな?

恥ずかしがりのあいだから、話を誤魔化すのかな?

どちらのあいでも、やっぱり、愛しい。に変わりは無いけれど。

だから、次に、僕から手紙をあげる時は、同じように緑の字で、ラブレターを、書くんだ。

そして、その時は、

「緑の字は、目に良いんだって。知ってた?」

と、言うと、笑っているあいを想像する。

でも、恥ずかしがりでは負けない僕は、手紙すら渡せない。

もし、渡せた時には、付け足して言うよ。

「俺が、ラブレターなんて書いたのは、あいが初めて。」

ってね。

笑って、ありがとう。と、言ってくれているのが、頭に浮かぶ。

ねぇ、あい。

このまま、この気持ちのまま、ずっと、僕の側にいてくれるのかな。
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